要点まとめ・第10章 AI倫理・AIガバナンス
公平性(シラバス 法律・倫理10)
学習目標
AIの判断が特定の集団に不当に不利になる仕組みを、データの偏り、サンプリングバイアス、代理変数などの経路から理解し、公平性の定義が複数あることを踏まえて、事例で偏りの原因と適切な対策を判断できるようにします。
要点
「属性を消せば公平」は誤り
「性別の列を消せば差別は起きない」と考えがちですが、AIはデータと設計を通じて社会の偏りを受け継ぎます。AIの判断が特定の集団に不当に不利になる問題を、アルゴリズムバイアスと呼びます。統計の「バイアスとバリアンス」のバイアス(予測の系統的なずれ)とは別の意味です。
偏りが入りこむ経路
- データの偏り:学習データに特定の集団が少ないと、その集団での精度が下がります。顔画像に肌の色が濃い人が少なければ、その人たちの認識を誤りやすくなります。
- サンプリングバイアス:データの集め方に原因がある偏りです。アプリの利用者だけを調べると、使わない人の傾向が抜け落ちます。同じ集め方で件数を増やしても直りません。
- 過去の判断の偏り:過去の採用や融資の結果を正解として学習すると、当時の差別的な判断まで再現します。
- 代理変数:センシティブ属性と相関する別の項目です。居住地域や職歴の空白期間が、人種や性別の代わりとして働くことがあります。
- 設計の選択:何を予測の目的にし、どの指標で評価するかでも結果は変わります。全体の正解率だけを見ると、少数の集団の誤りを見過ごします。
センシティブ属性と代理変数
センシティブ属性は、性別、人種、国籍、年齢、信条など、不当な差別につながりうる属性です。対象の属性は、憲法14条1項が挙げる事由や国際的な人権のルールを参考に決めます。
この属性を入力から外すだけでは、代理変数を通じて偏りが残ります。AI事業者ガイドラインも、これを潜在的なバイアスの例に挙げています。偏りを確かめるには、予測に使わない形で属性の情報を残し、属性ごとに結果や誤り率を比べる必要があります。
公平性の定義は1つではない
| 定義 | 考え方 | 書類選考での例 |
|---|---|---|
| 属性を使わない(unawareness) | センシティブ属性を入力に使わない | 性別の列を削除する |
| demographic parity | 集団間で陽性と予測する割合をそろえる | 男女の通過率を同じにする |
| equalized odds | 集団間で真陽性率と偽陽性率をそろえる | 適格者が通る割合と、不適格者が通る割合を男女でそろえる |
| 個人の公平性 | 似た人には似た結果を出す | 経歴が同じなら性別によらず同じ結果にする |
上の3つは集団の公平性、最後は個人の公平性の基準です。集団ごとに実際の適格者の割合が違うと、demographic parityとequalized oddsは、意味のある予測をする限り同時には満たせません。この両立の難しさは、再犯予測などの研究で示されています。用途に合わせて優先する公平性を決め、理由を説明できるようにします。
対策の流れ
センシティブ属性と確保すべき公平性の内容を決め、データの代表性を確かめます。そのうえで属性ごとに結果を評価し、必要に応じてデータの重み付けや判定のしきい値を調整します。影響の大きい判断には人間の確認を入れ、運用後も偏りを監視します。
つまずきやすい点
- センシティブ属性を入力から除いても、それと相関する代理変数を通じて偏りが残るため、検証のときは属性の情報を別に保持し、属性ごとに結果を比べる必要がある点
- サンプリングバイアスはデータの集め方が原因の偏りで、同じ集め方でデータの件数を増やしても解消しない点
- 集団間で選ばれる割合をそろえる基準と、誤りの割合をそろえる基準は別の定義で、集団ごとの実際の割合が違うと、一方を満たしても他方は満たされないことがある点
- モデル全体の正解率が高くても、人数の少ない集団に誤りが集中していることがあるため、全体の平均だけで公平と判断できない点
シラバスのキーワード
シラバス第1.4版に載っている語をすべて並べています。色のついた語は用語集で解説しています。「2問」などの数字は、その語を扱う練習問題の数です。
練習問題
- #0114 代理変数によるバイアス 難易度 応用・単一選択 未回答 付箋
- #0281 収集方法によるサンプリングバイアス 難易度 基礎・単一選択 未回答 付箋
- #0282 公平性の定義と指標の計算 難易度 応用・単一選択 未回答 付箋
- #0283 アルゴリズムバイアスの発生経路 難易度 標準・単一選択 未回答 付箋
- #0485 属性の組み合わせによる偏り 難易度 応用・単一選択 未回答 付箋
- #0486 個人の公平性と集団の公平性 難易度 標準・単一選択 未回答 付箋
- #0487 予測目標の選び方とバイアス 難易度 応用・単一選択 未回答 付箋
復習の時期が来た問題と、まだ解いていない問題から順に出題します。
この項目を読み終えたら
読んだ項目にチェックをつけると、学習ガイドの目次に記録されます。
前後の項目
出典
- G検定 試験出題範囲(シラバス2024)第1.4版 (法律・倫理分野 項目10 公平性)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日) (第2部C「共通の指針」3)公平性(脚注35、38))
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)別添」(2026年3月31日) (別添4 公平性の基準の確認、コラム17「集団公平性及び個人公平性」)
- Cynthia Dwork et al., Fairness Through Awareness (2011)
- Moritz Hardt, Eric Price, Nathan Srebro, Equality of Opportunity in Supervised Learning (2016)
- Alexandra Chouldechova, Fair prediction with disparate impact: A study of bias in recidivism prediction instruments (2016)
- Jon Kleinberg, Sendhil Mullainathan, Manish Raghavan, Inherent Trade-Offs in the Fair Determination of Risk Scores (2016)