要点まとめ・第10章 AI倫理・AIガバナンス
労働政策(シラバス 法律・倫理16)
学習目標
AIの導入が仕事や雇用に与える影響を、職業がなくなるかどうかだけでなく、仕事を構成する作業(タスク)の変化として理解し、人手不足への対応、AIとの協働のしかた、AIに頼りすぎることによるスキルの喪失への備えを、働く人と企業の両方の立場から考えられるようにします。
要点
仕事を奪うのか、人手不足を補うのか
AIと雇用の議論には、2つの見方があります。
1つは、AIが人の仕事を奪うという懸念です。オックスフォード大学のフレイとオズボーンは、米国の雇用の約47%が、自動化される可能性の高い職業に当たると推計しました(2013年発表)。2015年には野村総合研究所が同じ手法を日本の601の職業に当てはめ、10〜20年後に労働人口の約49%が、技術的には人工知能やロボットなどで代替可能になると推計しています。
もう1つは、AIが働き手の不足を補うという期待です。厚生労働省の雇用政策研究会の報告書(2024年)は、経済成長も労働参加も進まない場合、2040年の労働力人口が約6,002万人と、2023年の6,925万人から大きく減るという推計を紹介しています。そのうえで、生成AIなどの新しい技術の活用や省力化投資などに取り組む必要があるとしています。
職業ではなくタスクで見る
1つの職業は多くのタスクからできていて、AIが担うのはその一部であることがふつうです。推計の数字は「技術的に置き換えうる」ことを示すもので、実際の失業者の数ではありません。
生成AIの影響は、定型的な作業だけでなく、文章作成や分析などの知的な作業にも及びます。2023年の研究は、米国の労働者の約80%で仕事のタスクの10%以上が、約19%で50%以上が、大規模言語モデルの影響を受けうると推計しました。一方、厚生労働省の先の報告書は、現時点では深刻な雇用の喪失につながるという明確な結論は出ていないとしています。
AIとの協働
AIとの協働は、AIに任せる作業と人が担う作業を分け、組み合わせて成果を上げることです。
| AIが得意なこと | 人が担うこと |
|---|---|
| 大量のデータの処理、下書きの作成、パターンの検出 | 目標や課題の設定、最終的な判断と責任、人との関係づくり |
カスタマーサポートで生成AIの支援を使うと生産性が平均15%上がり、効果は経験の浅い人ほど大きかったという研究もあります。AI事業者ガイドラインは、AIと人の作業の分担が変わることを見越して、新しい働き方に向けた教育やリスキリングを検討するよう求めています。
スキルの喪失
AIに頼り続けると、人が自分で考え、判断する技能が落ちることがあります。2025年の観察研究では、大腸内視鏡検査でAIの支援に慣れた医師が、AIなしで検査したときの腺腫の発見率が、導入前の28.4%から22.4%に下がったと報告されました。若手がAIに任せきりになると、経験から学ぶ機会が減り、熟練の技能も受け継がれにくくなります。
備えとしては、AIが使えない場面を想定した訓練を続けることが挙げられます。AI事業者ガイドラインは、AIの判断を承認する前に、人が自分で理由や根拠を考える手順を、AIへの過度な依存(自動化バイアス)への対策の例として紹介しています。
つまずきやすい点
- 「労働人口の約49%が代替可能」という推計は、技術的には機械で置き換えうる職業に就く人の割合を示したもので、その人たちの仕事が実際になくなるという予測ではない点
- AIの影響は職業まるごとの置き換えより、職業を構成するタスクの変化として現れることが多く、生成AIの影響は定型的な作業だけでなく、文章作成や分析などの知的な作業にも及ぶ点
- AIに頼り続けると、人が自分で判断する力や技能が落ちるおそれがあり、AIが使えない場面や誤った場面で人が対応できなくなる点
- 日本では人口減少で働き手が減っていくため、AIは雇用を奪う脅威としてだけでなく、人手不足を補う手段としても期待されている点
シラバスのキーワード
シラバス第1.4版に載っている語をすべて並べています。色のついた語は用語集で解説しています。「2問」などの数字は、その語を扱う練習問題の数です。
練習問題
- #0289 AI導入とスキルの喪失 難易度 基礎・単一選択 未回答 付箋
- #0290 AIが雇用に与える影響の推計 難易度 応用・単一選択 未回答 付箋
- #0497 AI導入時の労働者への配慮 難易度 基礎・単一選択 未回答 付箋
復習の時期が来た問題と、まだ解いていない問題から順に出題します。
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出典
- G検定 試験出題範囲(シラバス2024)第1.4版 (法律・倫理分野 項目16 労働政策)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日) (第2部C 1)人間中心 ②(自動化バイアス、脚注23・24)、8)教育・リテラシー ②教育・リスキリング)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)別添」(2026年3月31日) (別添1 B. AIによる便益/リスク(労働者の失業))
- 厚生労働省 雇用政策研究会「雇用政策研究会報告書」(2024年8月) (2-1 2040年の労働市場の姿、4-3 新たなテクノロジーが雇用に与える影響、4-4 これまでのAIや自動化による雇用への影響)
- 野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015年12月2日)
- Carl Benedikt Frey, Michael A. Osborne, The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?, Technological Forecasting and Social Change 114 (2017)
- Tyna Eloundou et al., GPTs are GPTs: An Early Look at the Labor Market Impact Potential of Large Language Models (2023)
- Erik Brynjolfsson, Danielle Li, Lindsey Raymond, Generative AI at Work, The Quarterly Journal of Economics 140(2) (2025)
- Krzysztof Budzyń et al., Endoscopist deskilling risk after exposure to artificial intelligence in colonoscopy: a multicentre, observational study, The Lancet Gastroenterology & Hepatology 10(10) (2025)