1行定義
パルス符号変調器(PCM)とは、アナログ信号を一定の間隔で標本化・量子化し、得た値を2進数の符号の列で表す変調方式、またはその装置のことです。
くわしく
PCM(Pulse Code Modulation)は、音をデジタルデータで記録・伝送する、最も基本的な方式です。シラバスの表記は「変調器」ですが、PCMは一般に方式の名前(パルス符号変調)として使われます。
仕組みと歴史
PCMでは、A-D変換と同じく、信号を一定の間隔で標本化し、各時点の振幅を量子化して、2進数の符号の列にします。値を0と1のパルスの並び(符号)で表すことが名前の由来です。英国の技術者アレック・リーブスが、米国ITTのパリの研究所で1937年に考案し、1938年にフランスで特許を出願しました。雑音に強く、のちに電話網のデジタル化を支えました。
データ量の計算
段階を均等に区切るPCMをリニアPCMと呼び、そのデータ量は標本化周波数 × 量子化ビット数 × チャンネル数 × 秒数で求めます。音楽CDは44.1kHz・16ビット・2チャンネルなので、1秒あたり44,100 × 16 × 2 = 1,411,200ビット、8で割って176,400バイトです。WAV形式のファイルの多くも、中身はリニアPCMです。
圧縮形式や電話のPCMとの違い
MP3やAACは、人に聞こえにくい成分を削ってデータを小さくする非可逆圧縮で、元のPCMの値には戻せません。一方、電話の規格ITU-T G.711は、1秒に8,000回標本化し、1標本を8ビットで表すPCMで、8,000 × 8 = 64,000ビット毎秒です。小さな振幅を細かく、大きな振幅を粗く量子化するA則やμ則を使い、少ないビット数でも聞き取りやすさを保ちます。
AIとの関係
音声認識はPCMの波形を入力とし、音声合成はPCMの波形を出力します。波形を直接生成するWaveNetは、G.711のμ則で値を変換してから256段階に量子化し、次の標本の値を分類問題として予測しました。
覚え方
「リニアPCMは、標本化・量子化・符号化をしただけの、圧縮していない音」と覚えます。
G検定での出題
出題のされ方
A-D変換と同じ標本化・量子化・符号化の手順で音を表す方式である点、標本化周波数・量子化ビット数・チャンネル数・時間を掛けてデータ量を求める計算、MP3などの圧縮形式との違いが問われます。
◯×チェック
次の文が正しいか、誤りかを選んでください。
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リニアPCMは、人に聞こえにくい成分を削ってデータ量を減らす非可逆圧縮の方式で、MP3と同じ仕組みである。
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答え × 誤り
リニアPCMは、標本化と量子化をした値をそのまま記録する、圧縮していない形式です。聞こえにくい成分を削るのは、MP3やAACなどの非可逆圧縮です。
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電話の音声の規格であるITU-T G.711のPCMでは、小さな振幅ほど細かく、大きな振幅ほど粗く量子化するA則やμ則という符号化則が使われる。
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答え ◯ 正しい
小さな音の誤差を抑えることで、1標本8ビットでも聞き取りやすい音を保ちます。段階を均等に区切るリニアPCMとは、この点が異なります。
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WaveNetは、μ則で変換した音声の値を256段階に量子化し、次の標本の値を256クラスの分類問題として予測する。
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答え ◯ 正しい
16ビットの値をそのまま扱うと、1標本ごとに65,536通りの確率を出力する必要があり、扱いにくくなるためです。論文では、μ則による非線形の量子化のほうが、均等な量子化より元の音をよく再現できたと述べています。
この用語の練習問題
出典
- G検定 試験出題範囲(シラバス2024)第1.4版 (技術分野 項目28 音声処理)
- Alec Harley Reeves, Electric signaling system, US Patent 2,272,070(1942年2月3日登録、優先日1938年10月3日)
- B. M. Oliver, J. R. Pierce, C. E. Shannon, The Philosophy of PCM, Proceedings of the IRE 36(11), 1324–1331 (1948)
- ITU-T Recommendation G.711, Pulse code modulation (PCM) of voice frequencies (1988) (2 Sampling rate、3 Encoding law(3.1 8ビット、3.2 A則とμ則))
- Aaron van den Oord et al., WaveNet: A Generative Model for Raw Audio (2016) (2.2 Softmax distributions)