1行定義
トレーサビリティとは、データの出所、モデルの版、開発や運用中の意思決定などを記録し、AIの結果が生まれた経緯を後から追跡できる状態のことです。
くわしく
トレーサビリティは、ある結果がどのような経緯で生まれたかを、記録をたどって後から確かめられる状態です。食品や工業製品では、どこで作られ、どの経路で届いたかをたどれることを指します。AIでは、データ、モデル、判断の経緯が追跡の対象です。
記録する主な内容
- データ:学習データの出所、収集の時期と方法、加工の履歴(データの来歴)
- モデル:どのデータとコードで学習した、どの版のモデルか
- 運用:判断したときの入力と出力、使ったモデルの版、日時
- 意思決定:開発や運用の途中で、誰が、何を、どんな理由で決めたか
なぜ必要なのか
AIが誤った判断をしたとき、記録がなければ、データの問題なのか、モデルの更新が原因なのかを特定できません。経緯をたどれれば、原因を突き止めて再発を防げます。AIについての責任を果たすこと(アカウンタビリティ)や、監査の土台にもなります。
ガイドラインと法規制
AI事業者ガイドラインは、共通の指針の「アカウンタビリティ」の最初に「トレーサビリティの向上」を置いています。データの出所や、開発・提供・利用中に行われた意思決定などを、技術的に可能かつ合理的な範囲で追跡・遡求できる状態にすることです。「透明性」の項では、検証可能性を確保するためのログについて、記録方法、頻度、保存期間を、事故の原因究明での重要性などを踏まえて検討するとしています。
OECDのAI原則も、アカウンタビリティの原則の中でトレーサビリティの確保を挙げています。EU AI法は12条で、高リスクAIに、存続期間を通じてログを自動で記録できる機能を求めています。
似た言葉との違い
再現性は、同じ条件でやり直して同じ結果を得られることです。トレーサビリティは、結果に至った経緯をさかのぼれることです。説明可能性は、モデルがなぜその出力をしたかを示すことで、トレーサビリティはその手がかりにもなります。
覚え方
「trace(たどる)+ability(できること)」と覚えます。
G検定での出題
出題のされ方
再現性や説明可能性との違いのほか、事故の原因究明や責任の所在の確認に備えて何を記録しておくかが、企業の事例で問われます。
最新動向法改正やガイドラインの改訂はG検定の法律・倫理分野の最新動向にまとめています。
混同しやすい用語
◯×チェック
次の文が正しいか、誤りかを選んでください。
-
AI事業者ガイドラインは、トレーサビリティを確保するため、AIシステムのすべての処理の記録を、期限を設けずに保存し続けることを求めている。
答えを見る
答え × 誤り
トレーサビリティの向上は、技術的に可能かつ合理的な範囲で追跡・遡求できる状態を確保することとされています。ログの記録方法、頻度、保存期間も、「透明性」の項で、技術の特性や用途、事故の原因究明での重要性などを踏まえて検討するとしています。
-
EU AI法は、高リスクAIシステムについて、システムの存続期間を通じてイベントの記録(ログ)を自動で残せる機能を備えることを定めている。
答えを見る
答え ◯ 正しい
12条の記録保持の規定です。用途に応じたトレーサビリティを確保し、リスクのある状況の特定や、市販後モニタリング、運用の監視に役立てることが目的とされています。
-
AI事業者ガイドラインがトレーサビリティの向上で追跡・遡求の対象に挙げているのはデータの出所だけであり、開発や利用の途中で行われた意思決定は含まれない。
答えを見る
答え × 誤り
共通の指針は、データの出所に加えて、AIシステム・サービスの開発・提供・利用中に行われた意思決定なども、追跡・遡求の対象に挙げています。
この用語の練習問題
出典
- G検定 試験出題範囲(シラバス2024)第1.4版 (法律・倫理分野 項目18 AIガバナンス)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日) (第2部C「共通の指針」6)透明性 ①検証可能性の確保、7)アカウンタビリティ ①トレーサビリティの向上(脚注44))
- European Commission, High-Level Expert Group on AI, Ethics Guidelines for Trustworthy AI(2019年4月) (Chapter II 1.4 Transparency(Traceability)、Glossary)
- OECD, AI Principles: Accountability (Principle 1.5)
- European Commission AI Act Service Desk, AI Act Article 12: Record-keeping (12条1項・2項)